歯科と"医科"

一般には、歯科と医科は同じようなものだと思われています。

じつは、多くの場合、反対の性質なのです。

このことは、言われないとおそらく誰も気がつかないと思いますが、この違いをしっかり認識しないと、あなたの歯はどんどん悪くなってしまいます。

そこで、歯の健康に大事な「歯科と医科」の違いを認識するために、まず医科について考えていきます。

外科、内科、整形外科、耳鼻科、皮膚科、精神科、産婦人科などなど…
そこで扱われる疾患は、いくつかのパターンに分類されます。性質が歯科と似ているもの、反対のものもあります。

"医科"の性質とは

慢性疾患

代表的なのが、糖尿病(2型)です。

いわゆる慢性疾患と呼ばれるものです。
2型糖尿病は生活習慣病とも呼ばれ、日常生活のありかたが大きく左右します。
慢性疾患の恐ろしいところは、ひとたびすい臓や腎臓がダメになってしまうと、その後一生注射や透析、内服薬が手離せない人生になってしまいます。

慢性疾患や生活習慣病は、そこに至るまでの長期的な状態が強く影響します。

これは、歯科と似ているでしょうか?反対でしょうか?

進行性難病

がん、進行性難病、薬害エイズなど

これらは、なかなか厄介な問題です。
気がついた段階で、完治が見込めなかったり、はなはだしい場合は「余命○年」などということもあります。
がんの場合は、部位にもよりますが初期なら根治も可能です。
しかし、転移や進行してしまって、残念ながら緩和ケアが主体になってくることも少なくありません。
まだ確たる原因や治療法も見つかっていない進行性難病の場合も当然、緩和ケアが主体になってきます。
少しでも進行を遅くして延命しようということに全力が注がれます。

いかがでしょうか。
「なかなか厄介なこともあるなあ」と多くの方が思ったと思います。

しかし、これら2つは、全体としてみると少数派といってもいいと思います。

これは、歯科と似ているでしょうか?反対でしょうか?

医科一般

圧倒的に多いのは、事故やスポーツなどでの急なケガや病気、食中毒などの一時的な感染症でしょう。
これらに特徴的なことは、治療の主目的が自然治癒力を引き出すということです。
傷口も、寄せて保護しておけば自然治癒力でつきます。骨折も同じです。
感染に対して投与する抗生物質も、免疫力による自然治癒力の補完的位置づけです。

これら、医科一般に属するものには、2つの大きな特徴があります。

◆ 治療では自然治癒力が重要な役割を果たす
◆ あらかじめ回避することが困難、不可能である

自然治癒力についてはくり返しになるので割愛します。
「回避が困難」ですが、たとえば交通事故を恐れて一歩も家の外に出ない、などであればたしかに交通事故には遭わないと思いますが、いかんせん非現実的です。
また、食中毒などもいつ起こるかわかりませんし、インフルエンザの予防注射も予測が外れて当てにならないこともあります。
常識的な日常生活を営んでいる以上、何らかの偶発的なアクシデントは付きものです。

そのような避けがたい偶発的なアクシデントを十分想定して、事態に際しては迅速に対応するというのが、医療の本分でもあります。

また、アクシデントが起きて医療機関を受診しているのですから

◆ 自覚症状が当てになる

当たり前といえば当たり前です。

これは、歯科と似ているでしょうか?反対でしょうか?。

"歯科"の性質とは

では、歯科はどうでしょうか?

むし歯が突然痛くなったのは、偶発的なアクシデントでしょうか?
このごろ奥歯がグラグラしてきて、腫れるようになったのはどうでしょうか?
・・・ちがいますね。

事故やケガでぶつけたようなものでない限り、回避することが困難である、とはいえないと思います。

また、「初診時にすでに進行していて、患者様が驚いた」ということは当歯科室でも日常的に経験しています。
逆に、痛い痛いといって来院された方を拝見すると、知覚過敏の初期や不定愁訴だったりすることも多いです。

どうも、自覚症状はほとんど当てにならないのが歯科の実情のようです。

痛くなくても、半年に一度なり、定期的に確認しておけば、歯周病も進まなかったでしょうし、むし歯も非常に小さい段階で対応できた、あるいは進行や発生そのものを抑えることもできたでしょう。

つまり、自分の自覚症状をあてにして歯科医院に通ってはいけない可能性が高いのです。いつもの「痛くなったから歯医者の門を叩いた」が、本当はとても不利な行為でした。

◆ あらかじめ回避することが可能・有効である
◆ 自覚症状が当てにならない

まったく国民常識に反する内容ですが、よく考えると、そういうことになります。

しかもです。
医科と比べて、歯の治療を良く考えてみてください。

削ったむし歯にフタをしておけば、削った部分が自動的に盛り上がるでしょうか?
ダメになった神経に薬を塗ってフタをしておけば、神経は再生するでしょうか?
抜いた歯にフタをしておけば、新しい歯が生えてくるでしょうか?

ありえません。

ダメになった部分を取り除いた後は、人工的に修復しなければいけません。
詰めたり、かぶせたり、根の剥製化(根管充填)をしたり、抜いて入れ歯やブリッジにしなければいけません。

欠損に対して物質で機能と形態を回復することは、リハビリテーションです。医科に例えると、義足とか義手的な概念になってしまうのです。外科や内科などの医療ではありません。

◆ 治療?では自然治癒力が存在しない

では治療(=物質で回復)すればもう大丈夫でしょうか? そんなことはないのは皆様身をもってよくご存じのとおりです。統計的にも、10年前後でまた壊れることが一般的です。

そうすると、自然治癒しないので、また同じことのくり返し(=再度広範囲に物質で回復)です。

安易に歯医者に行けば行くほど、あなたの歯がなくなってしまうのです。

このように、医科一般と歯科では、性質が全く反対です。

医科一般

◆ 治療では自然治癒力が重要な役割を果たす
◆ あらかじめ回避することが困難、不可能である
◆ 自覚症状が当てになる

歯科

◆ あらかじめ回避することが可能・有効である
◆ 自覚症状が当てにならない
◆ 治療?では自然治癒力が存在しない

理屈では分かっても、感覚としては不思議ですね。