正しい対応

正しい対応の一般化

前ページで、医科と歯科は「自然治癒力」「回避・予防」の点で性質が逆であると述べました。

そこで、この点を一般化して考えてみます。

「回避予防できる・できない」ことを、回避可能性の有無と看做します。
「自然治癒する・しない」ことを、復旧性の有無と看做します。

そうすると、「事象」を次の4つに区分することができます。

◆ グループA「回避あり」「復旧あり」
◆ グループB「回避あり」「復旧なし」
◆ グループC「回避なし」「復旧あり」
◆ グループD「回避なし」「復旧なし」

以下、順に見ていきます。

◆ グループA「回避あり」「復旧あり」

自然治癒力で復旧可能であり、しかも予防することができます。
問題としての優先順位は大変低く、大きな対策は、とくに必要ありません。
でも念のため、いちおうお医者様に診てもらったほうがいいかもしれません。

◆ グループB「回避あり」「復旧なし」

自然治癒力での復旧が全く見込めません。
しかし、そうならないように予防することが可能であり有効な手段であるものです。

歯科がまさにこれです。 あと、2型糖尿病などのいわゆる慢性疾患、成人病もこちらです。

日常の回避努力(歯科では定期健診、フッ素塗布、歯石除去、予防努力など。糖尿病では日頃からの節制、運動など)により、発症をほぼ押さえ込むことができます。また万一の発症の際も、発現時期を大幅に遅らせたり、症状を大幅に軽減できたりします。

しかも、事前の回避努力が低コストで実現可能なのも、グループBの特徴です。
日常・事前の回避努力が最善手になります。

事前の対応が適切に行われないと、後述のグループD化します。
グループBを後述のグループCと取り違えても、グループD化します。

◆ グループC「回避なし」「復旧あり」

自然治癒力で実質的に復旧可能です。
しかしその発生を予測して回避することが実質的に困難、あるいは不可能なものです。

ケガや事故、予期しないインフルエンザなど感染症の流行など、いわば一般的な医科の疾患がこれに当たります。「もらい事故」、スポーツや娯楽でのアクシデントなども含めると、偶発的なトラブルも少なくありません。

いわゆる「医科一般」にあたります。

グループCは、これらを事前に有効に回避できないのが特徴です。
しかし、ポリープの様に、スクリーニングで早期発見が可能なものもあります。

さけがたい事後のすみやかな「オンデマンド」の対応のために「問題が起きたらすぐ治療」など事前に体制を十分整えておくことです。

保険一般(生命、損害などを含む)に非常になじみの良い性質でもあります。
しかし、グループBよりは対応のコストがかかります。

事後の対応が後手に回ると、自然治癒力を阻害し、後述のグループD化します。
事後の迅速な対応が、自然治癒力を引き出すためにもっとも大事なことです。

これに対しての日本の保険制度は、非常に高いレベルで対応しています。

◆ グループD「回避なし」「復旧なし」

実質的に自然治癒力での復旧が全く見込めないばかりか、その発生を予測して回避することも困難、あるいは不可能なものです。

予防法もなく、治療法もない。これはやっかいです。

いわゆる先天性・突発性の進行性の難病、大ケガや大病による四肢などの部分欠損、ある種のがんなどがこれにあたります。また薬害エイズや予期しない後遺症も実質的にここの範疇でいいと思います。

なるべく長期的に手厚いケアを行い、緩和努力やリハビリを重視することなどが中心的な対応になります。

コストは高めで、原則的に時間に比例してコストがかかるので固定費化してしまいます。
しかしメリットデメリットを勘案して、やるべきときはやるべきです。

以上、グループAからグループDまで分けて、それぞれの特徴や事例、対応を簡単にまとめてみました。
題して「『根本』的問題解決の『回』『復』チャート」・・・です。

歯科は「進行性の難病」だったのか

さきほど、歯科疾患はグループB「回避あり」「復旧なし」だと分かりました。
事前の回避努力が可能、というよりは、回避努力が有効な最善手なのです。
しかし、医科と混同して「復旧なし」のものに「事後対応」してしまうと・・・

歯科疾患はグループD「回避なし」「復旧なし」になります。
つまりその人にとって、歯科疾患は進行性の難病になってしまうのです。

なんということでしょう・・・!

さらについ最近まで、わが国では感覚的にも、保険制度上は現在も、歯科疾患に対する回避努力(予防)の有効性・必要性は完全に無視されてきました。

ということは、つい最近までは、日本人にとって歯科疾患は進行性の難病であり、打つ手がない状態であったということに等しかったのです。

「手厚いケアを行い、緩和努力やリハビリを重視」・・・

◆ 手厚いケア~保険制度などでの費用負担軽減
◆ 緩和努力~痛み止め、化膿止め、麻酔など
◆ リハビリ~詰め物、差し歯、ブリッジ、入れ歯、マウスピースなど

・・・ 本当に「打つ手がない状態」と完全に一致、まさに歯科疾患の実態は進行性の難病そのものです。

いかがですか? 私がなぜこれほど国民の歯科疾患を憂れいているか、読者の皆様にもお分かりいただけたのではないかと思います。

私たちは、グループB「回避重視」なのに真逆のグループC「オンデマンド」と取り違えて軽く考えすぎていたのです。

その結果、本来グループBであった歯科疾患がグループD「進行性の難病」に化け、国民や歯医者は手痛いしっぺ返しに散々苦しめられてきたのです。

しかし、先人たちの叡智により、最近になって歯科疾患がグループBであることが分かってきました。化けの皮は剥がれたのです。

私たちは一刻も早く、グループD「進行性の難病」に悪化してしまった歯科疾患という化け物をグループB「回避重視」というおとなしい生物に戻すしかありません。

これが、私が「予防歯科は『良いことだ』ではなく『必要だ』」と思う根拠です。

APPENDIX~歯科以外のものについても適用できる

私がこのような分類に意義を感じる理由はほかにもあります。

じつは身の回りのさまざまなトラブルや、ニュースになるような出来事、事故なども、ある程度妥当性のある評価や方向性を見出すことができるからです。

この問題は先送りすべきか、後から対処で良いか、あらかじめ処理しておいた方が良いか?
歯と全く関係ないことがらでも、上記のようなグループ分けをして整理すると、すっきりします。
ぜひ、おためしください。

「問題への対処の方法」まとめ

問題解決のポイントは、以下の様にまとめられます。

(1)「回避」「復旧」まずグループBかグループCかを見極める
(2)グループBをグループCと取り違えるとグループD化
 * (グループCをグループBと取り違えることは不可能)
(3)グループBへの事前対応が取れないとグループD化
(4)グループCへの事後対応が遅くなるとグループD化

事前か事後か?
適切な対応で、問題のグループD化を避けることが最優先課題です。

そのためにもっとも大切な判断指標が「回避」性および「復旧」性の有無です。

少々、歯科の例をはなれてしまい、失礼いたしました。
しかし、以上の例からも分かるように、歯科以外での一般的なさまざまな問題・トラブルについても、このようなグループ分けで考えることで、およそ妥当性が感じられる方向を自分の頭で考えて模索することができます。

「『根本』的問題解決の『回』『復』チャート」・・・ぜひ、ご笑納ください。