予防歯科

予防歯科とは何でしょうか。

基本的には歯を失わずに維持して残す方法論です。
歯科とついてるので「誤解」しやすいですが、むしろ歯医者にお世話にならないためにはどうするか、をつ きつめて実践していくことを予防歯科と呼びます。

歯は治療できない

そもそも「治療」とは何でしょう?

治療というからには医学的な「治癒」を求めるのが当然です。
傷口はふさがる、骨折した骨は付く、感染は除去される、などなど。こういうのを「治癒」といいます。

人間には自然治癒力が備わっているので、それらを補助するために、傷口を保護したり、ギブスで安定化させたり、抗生物質を投与したりデブライドメントしたりするのが医学的な治療の大前提です。

そうなると、「歯科」で「治療」ができると考えることは、それこそ、むし歯を削ってフタをしておけば自然に歯が増殖して穴が復旧するとか、抜いた歯がまた生えてくる、という話になります。

ところがどうでしょう?
今までの「歯科治療」と称していたものの正体は接着剤で人工物に置換する行為です。これらは「形」を作るものなので、治療ではなく「リハビリテーション」なのです。

もちろん、接着剤程度では病原菌をシャットアウトすることすらできません。電子顕微鏡で見れば、接着剤など穴だらけです。健康な皮膚や粘膜が病原菌をシャットアウトできるのとは対照的です。

私たちはここ数十年間、先生方も含めてみんなで騙されてきました。
健康保険は、歯科については設立当初は有効だったかもしれませんが、現在は特に歯科では、修復重視の制度設計がそのまま予防軽視につながり、逆に私たちの疾患率を悪化させてしまうことがわかっています。

おまけに、私たちの自己評価が大きく下げられてしまいました。これは痛恨の極みです。
その証拠に、誰に聞いてもたいてい、自分の歯1本の価値は数千円~数万円、歯全体で考えても数万円~数十万円と答えます。

早期発見早期治療?

「何かあったらまた連絡してください」

よく、ひととおり歯科治療が終了した後に、こういわれてそのまま終了したことも多いのではないでしょうか?私も、先方があまり乗り気でないような気がした時など、たまに使用しますが、これは本質的にかなり冷たい言葉です。

「何か」って、何でしょうか?「何か」を的確に判断できるのでしょうか? 歯科の場合、たいてい「何か」あったと思ったときというのは、思ったよりも悪化しているものです。C2、C3も無自覚に進むことも多く、とくに歯周病などは、素人判断は絶対に無理です。

ほぼ唯一の例外は知覚過敏です。これはなり始めが一番痛くて、だんだん寛解するのですが、通常の歯科疾患と逆で患者様の方が大げさに心配されます。この点については興味深いものがあります。

また、親知らずの抜歯の可否の判断についても、素人判断にゆだねてよいものといけないものがあります。ゆだねていけないものをゆだねてしまうと、当然後でもっと悪くなります。そして迷ったうちの7~8割は、抜かなければいけないケースです。。

治療の大多数は再治療

これは、うすうす分かっている方も多いのではないでしょうか?

詰めてもかぶせても、すき間からむし歯になってやりなおし。
取れてしまったら、中がやられていて、さらに大きく削りなおし。
とくに、保険の範囲内で神経を取って差し歯にしてしまった歯は年数がたつと多くは再治療になります。
なかには一気に歯根縦破折で抜歯になってしまうケースもままあります。

だったら、なぜそのようなことを繰り返すのでしょうか?

諸外国の例

イギリス、ドイツ

まずイギリスドイツの例を見てみます。これらの2国は公的保険で歯科治療が受けられる珍しい国ですが、結果として保険制度が壊滅し、安易な修復は百害無益であることを如実に示しています。

イギリスはご存知NHSという公的保険で、無料またはそれに近い価格で国民が医療を受けられるとされています。 しかし実態はどうか?手術ひとつに半年一年待ちは日常茶飯事、歯科でも次の予約は○ヵ月後、なんだそうです。このような使い勝手の悪さが大きな問題となっています。

とくに歯科は、あまりの不採算性から患者負担割合がどんどんあがり、最後は8割負担にまで上昇してしまいました。現在は3バンド制というドンブリ勘定の制度にかわり、少し治療してもたくさん治療しても同じバンド(悪化度)内の疾患なら治療費は同じ、となりました。

必然的に、同一料金内=同一バンド内で、患者側はできるだけたくさん治療してほしいのに対して、歯科医院はできるだけ治療を少なくして売上に対する原価率を下げたいと考える様になってしまいます。これがNHS歯科治療が使い勝手の悪いものになる理由です。

最近では「デンタルツアー」と称して、東欧など物価の安いところにインプラントや審美など高額治療を受けに行くツアーが大流行です。個人的には、治療の後のメンテナンスのことを考えたら、継続的な訪問に負担を感じるほどの遠隔地へのデンタルツアーには疑問を感じます。
また、ある程度余裕のある層は、待たないで早く治療を終わらせたいので少々高くついても国内の「プライベート歯科医院(自由診療専門)」に流れています。

まさに患者の流動化、保険からの逃避が現在進行形で起こっています。

ドイツも手厚い保険で有名でしたが、小手先の技術におぼれたのか、予防を軽視した結果、あまりのむし歯の多さに業を煮やしてしまいました。「削る・詰める・かぶせる」 などの修復に本質的な意義が無いことを遅ればせながら悟り、今ではすっかり予防補助主義に変更してしまいました。
そのあたりはさすが合理主義的なドイツ人、現在はむし歯も極めて少なくなっております。

このように、「保険=公金」を使って「治療という名の修復」を推し進めることは

 需給関係と価格形成面での矛盾、破綻
 結果として歯をより悪くする

という結果になることが分かりました。

カナダ

映画「シッコ(マイケル・ムーア)」をご存知の方も多いと思います。これはご案内のとおりで、アメリカでいかに公的な医療保険が貧弱であるかということを、監督自らの念入りな取材で構成したドキュメンタリー映画です。またオバマ元大統領も、オバマケアと称するそこそこの医療保険制度を導入しようとして、結果的に失敗しました。

そのようなアメリカの体たらくに比べてカナダはなんてすばらしいんだろう、医療行為は何でも無料だし、のような論調です。

ところがカナダの保険制度では、「歯科」については全くカバーされていません。残念ながら100%自由診療です。
おそらくですが、(歯科は予防すればむし歯や歯周病にならないんだからかまわないだろう)とか(歯科の修復は医療とは看做せない)という制度思想なのではと想像します。

歯科医師数削減のトレンド

いわゆる「削る」「詰める」「型を取る」「入れ歯」などの、日本では保険が利いて気軽だとされる「一般歯科」とくに成人一般歯科については、

 予防すれば本来不要なもの
 価値の低いもの

という認識が急速に広まりつつあり、(私的には残念ながら?!)一般歯科医やその資格に対する意義に懐疑的な声が増えつつあります。

このようなことはご存知でしたでしょうか?

フィンランド

ご存知キシリトールの本家本元ですが、ここでは予防が徹底してほとんど歯科疾患にならないのでいわゆる一般歯科の歯医者さんはほとんどいらないということになりました。

万一むし歯になってしまったとしても、定期検診で即座にピックアップして萌芽のうちに処置してしまえば、永久歯に悪影響を及ぼすことはないことを実践で証明してきました。

今では多くの歯科大学が定員削減、ないしは廃校になり、その分、そのような初期治療に特化した「デンタルセラピスト」専門学校への置き換えが進んでいます。

デンタルセラピストは、日本語に訳すと「歯科治療士」「歯科士」といったところでしょうか。歯科医師の指示のもと、予防処置やう蝕処置、麻酔、抜歯等の一定の範囲内の歯科治療行為ができる資格です。育成については歯科衛生士のように2~3年の専門学校を卒業すると免許が付与されます。または歯科衛生士に付加的な研修を受けさせて資格を与えるところもあります。

デンタルセラピスト制度では教育経費も大幅に削減することができるのが利点でもあります。その分の社会的リソースをさらなる歯科衛生士やデンタルセラピストの育成にあてることによって、そもそもむし歯や歯周病に持ち込まない道を選んだのは大変賢明であるといえます。

スペイン、イタリア

http://www.heraeus-kulzer.co.jp/customer/storm_080828.html
これらラテン諸国では、歯科専門科目を1秒も履修していない「医科」医師が堂々と歯科医院を開業できます 。

オーストリア

言わずと知れた、芸術の都ウィーンを擁する、欧州の要衝オーストリア。
ここではなんと驚くことに、誰でも歯科治療をしていいのです・・・
2005年に欧州司法裁判所は、オーストリアの歯科医師資格を欠格だとする欧州委員会の主張を認めたとのことです(前掲)

オーストラリア
ニュージーランド

英連邦の南半球2国では、「デンチュリスト」といい、いわゆる歯科技工士が直接患者さんの歯を治療していいことになっています。
最初は総入れ歯だけだったのですが、すぐに部分入れ歯にも拡大され、ほとんど歯科医師と同じ内容になっています。

あまり日本では知られていない話ですが、飯塚哲夫先生という方の以前の講演録から引用します。

ニュージーランドでは1988年に、歯科医師の資格は必要ない、誰でも自由に歯科医業に従事できるという法案がつくられました。歯医者というのは教育の必要はない、免許も必要ないと。その後、当時の日本歯科医師会の山崎カズオ会長が、オランダのアムステルダムで行われたFDIの会議で会長に推挙されまして、そのときに私は山崎さんに一緒に行ってくれと言われて行ったんです。FDIでいろいろな会議をやっていましたけれども、その中でニュージーランドの代表が、ニュージーランドでは歯科医師という職業は免許が要らない、学校の教育も必要ない、誰でもやっていい、そういう法案をつくって国会に提出する寸前までいったという発表をしたんです。それでニュージーランドの歯科医師会はFDI の応援を受けて、どうにかそれを阻止しましたけれども、そのかわりデンチュリズムと言って、技工士は歯科医とは関係なしに入れ歯をつくってもいいという法律が通ってしまったんです。
私はたまたまそれを聞いてびっくりして会場を見渡しましたけれども、日本語の通訳もいなくて英語だけですから、私以外に聞いている日本人はいなかったんです。だけどFDI の役員である山崎さんは知っているはずだと思って、その日の夜、山崎さんに、先生、これをご存じでしょうと言ったら、それは言わんでくださいと散々言われました。これを言うと日本でも大騒ぎになって、日本でも歯科医師の免許は要らないなんて言い出すかもしれないと思ったんでしょうね。

「ファインディング・ニモ」

「シドニー ワラビー通り42 Pシャーマン」
ご存知ピクサーの有名な映画(2003)です。悪者?にとらわれたクマノミの「ニモ」を探しに、父親の「マーリン」と知人のナンヨウハギ「ドリー」で探しにいくお話です。
唯一の手がかりは、水中メガネに書かれた住所と名前ですが、ニモが捕まった先は、ワラビー通り42の「Pシャーマン歯科医院」の水槽でした。

ハリセンボンの「ブロート」が「ラバーダム使ってる?」と心配する割には欧米なのにラバーダムも使わないで根管治療するし、ドリルなどの器具操作に薬指のフィンガーレストは置かないし、ポジショニングも水平位なのに7時の位置だし、口元はなんとマスク無装着、など、我々からみるとかなり詰めの甘い歯科医師のようですが、もっとも注目すべきは診察室の狭さです。
なんとユニットは1台。診療室は8~10畳くらいでしょうか。待合室には数人しか座れませんし、受付はいますが診療室内にスタッフもいません。これで1日に見られる患者数は数人~多くても10人程度でしょうか。

その割にはツノダシ「ギル」など飼育難易度の高い魚を複数所有して、休日にはボートを繰り出して趣味のダイビングに興じる。

日本の保険制度でこんな診療スタイルではとても生活を維持できません。あっという間に経費倒れで倒産です。わが国で保険中心でやるには、1時間に4人は診ないと持たないような制度設計になっているからです。ユニットは1人で3台、代診には2台もたせるのが一般的です。

これはおそらく、ありがちながらもあまり好ましくないスタイルの歯科医院なんだろうと思います。

ただ一般に予防歯科が浸透した先進国では、一般歯科医師のメインの仕事は、検診に来た人の口の中をチェックすることです。実際の掃除や指導は歯科衛生士がやってくれるのでまさに

「みるだけ」

です。たまに治療の人が来たりしても、料金体系が全くちがうので、1日数人で十分ペイできるようです。

こういう話を聞いて「オーストラリアに生まれなくてよかった、日本は歯の治療が安いから」と思ってしまっているようでは、歯が悪くなる一方(あるいはもうだいぶ悪い)なんだろうと思います。

歯「以外」の大切さ

そもそも、歯医者というと歯「だけ」何とかしろ、という考え自体が間違っています。
歯とはその人の生き様の表現形そのものだからです。
職業、食習慣、生活習慣、性格、骨格、etc

「・・・全部」

そうです。すべての要因が密接に絡んで、現在の状態に表れているので、「歯だけ」を何とか修復する、という発想では本質的に解決にならないのです。

「歯を鍛える」フッ素

残念ながら、わが国では、フッ素の応用がかなり勘違いされており、お子様方がむし歯になりやすい脆い歯のまま大人になってしまっています。

フッ素イオン(F-)は、歯の結晶のアパタイトの中の水酸化物イオン(OH-)と交換されます。その結果、結晶の耐酸性が強化され、むし歯になりにくくなります。

フッ素は年齢を制限したりすることはありませんが、特に幼若永久歯の強化に強みを発揮します。
日本の場合は水道水フッ素化は行われていないので、6歳臼歯など永久歯が生え始めたら、歯科医院で定期的にフッソを塗布しましょう。目安などは「小児歯科」のページをご参照ください。

糖質に注意しよう

とくにむし歯タイプの方は注意が必要です。

お口の常在菌には「むし歯菌」「歯周病菌」「その他の菌」の3種類いるので、とうぜん「むし歯菌」の比率の高い人は、他の人よりもむし歯になりやすい人といえます。
このような人は、歯みがきも当然そうですが、食事の中の砂糖(ショ糖)のコントロールがきわめて大事です。

体調を崩さない範囲で、羅漢、甘草などのノンシュガー甘味料などを積極的に取り入れ、お口の中のむし歯菌を甘やかさないことです。

その他 、免疫疾患や加齢などで唾液分泌が低下して口が乾燥しやすい方も、さまざまな配慮が必要です。

健康に注意しよう

じつは、内科的な部分がクリアされていないと、いざ歯科の中で決して少なくない観血的処置・侵襲的処置が必要になったときに、治療できませんということになってしまうのです。

麻酔できない、処置できない、投薬できない…いざというときにこれでは、なにもできないのと同じです。

いろいろありますが、代表的なところでは

◆ 過度な高血圧
◆ 血液の滞り
◆ 糖尿病・腎臓疾患
◆ 骨粗しょう症
◆ 要介護の問題

の問題が大きいと日々感じています。

◆ 過度な高血圧

ですが、境界領域付近ではそれほどでもないのですが、あまり高すぎると血が止まらないので抜歯や出血を伴う処置などができません。
また、麻酔には止血剤として少量のアドレナリン(エピネフリン)が添加されていますが、これが心臓に負担が大きく、万が一などということもありますので、麻酔も危険だということになってしまいます。また弱い止血剤や止血剤なしの 麻酔だと、効きにくいのです。

◆ 血液の滞り

血栓やコレステロールなどで、ワーファリンなどの「血液サラサラの薬」を一定以上摂取すると、やはり血が止まりにくくなるという問題があります。
とくに高齢者の場合はさまざまなリスクが高まりますから、指標としてPT-INRが3未満、最悪でも4未満でないと一般的な施設での歯科治療は不可能です。

◆ 糖尿病・腎臓疾患

これらは傷の治りが遅くなり、雑菌の感染に弱くなるので、歯科治療でしばしば問題になります。とくに糖尿病では指標としてHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が6未満、最悪でも7未満でないと、傷が付かない、縫っても傷口が開いてしまう、菌血症になるなどのリスクがあるため、抜歯や小手術などができません。
もちろん透析患者が一般レベルの歯科医院でこれらの処置を行うことは、少なくともかかりつけ内科医の指導がない状態では実質的に不可能です。

◆ 骨粗しょう症

とくに最近は内科で予防投薬と称してビスホスホネート製剤を気軽に投与することが多く、歯科界で問題になっています。いわゆる1週間に1錠出す、あの薬です。
ビスホスホネート製剤は抗がん剤として注射投与することもあり、こちらの場合はかなり高濃度の薬が体内に残留することになります。
経口の場合は微量ですが、とくに東洋人の場合は経口でもこの薬の影響が出やすいとされています。抜歯や小手術をしたときに、広範な骨の壊死や菌血症が起こり、たいへんなことになります。これをONJと呼びます。経口投与でも数年以上服用していると、骨の治りが悪く、まれですがこのようなことが起こることも報告されています。

◆ 要介護の問題

こうなってしまうとお口のケアが自分ではできません。片麻痺でもあればごはんつぶなどの食べかすを口に残さずに食事をすることは不可能です。しかし介護の現場にそのような口腔ケアを統括するにふさわしい専門家としての歯科衛生士が極端に不足しています。看護師や介護福祉士などは全身的な状況には詳しいですが、口腔内に関しては正直お寒い限りです。

そうなるとどうなるか?

今まで使っていた部分入れ歯などもすぐに使えなくなってしまうので、捨てられてしまうことが多いと聞きます。
歯はあっという間にむし歯と歯周病で壊滅的な状況になり、残された手段は抜歯して(抜歯できないような糖尿病などの内科的疾患があれば自然脱落を待って)総入れ歯しかない、ということになります。

しかしやっかいなことに、総入れ歯ほど型を取るのが難しいものもありません。

健康な高齢者でも総入れ歯の型を取るのは至難の業で、「入れ歯を作り直してくれ」「修理してくれ」という気の毒な高齢者であふれているのが現状だというのに、相手が寝たきりなど要介護では、よほど特殊技術の修行を積んだ歯科医師でもない限り、製作は不可能です。

このように、一見歯と関係なさそうな内科的疾患が、歯科に大きな影を落としていて、いざ処置が必要になったときに、

「○○なのでできません」

ということになっては元も子もありません。
こうならないように、とくに中年以降の健康状態の維持増進は歯科にとってもひときわ大事です。
とりわけ、なんでも薬に頼ると副作用で上のようなことになりますので、日頃から医食同源や運動を意識して、みせかけでなく地の健康を増進したいものです。

◆ 「悪くなっても気軽に保険で」?

たしかに医科では、この言葉は非常に意義があります。
しかし、歯科ではどうでしょう?

 気軽に保険で削って保険の銀歯
   ↓
  すき間からむし歯が広がる
   ↓
 気軽に保険で神経を取って保険の差し歯
   ↓
  雑に神経を取って根が感染
   or
  保険の差し歯の芯棒で根が割れる
   ↓
 気軽に保険で抜いて保険のブリッジ
   ↓
  負担過剰やすき間のむし歯で共倒れ
   ↓
 気軽に保険で抜いて保険の入れ歯
   ↓
  バネのかかる歯がどんどんだめに
   ↓
 気軽に保険で抜いて保険の総入れ歯
   ↓
  ・・・

このように、日本の保険は制度設計からして自分の歯を残すことをまったく考えていないのです。
こんなことでは、総入れ歯への特急券です。
これが保険思想の恐ろしさです。

ではこれからこうならないように、どうしたらよいのでしょうか?歯科医院や制度を含めて、方向性はどうあるべきなのでしょうか?

私たちの歯科のこれから

インプラント~あと数十年は必要

残念ながら、現在はまだ、少し前まで当たり前だった「悪くなっても気軽に抜いて入れ歯」の後遺症に苦し む人が数多くいます。
残念ながら、入れ歯では不快なのは当然ですが、もっとも肝心な力のバランス面において、天然歯の代役を全く果たさず、さらなる破壊を推し進めてしまうことが明らかになっています。とくにバネのかかる歯の傷みっぷりは悲惨のひとことに尽きます。
「そんなことはない、保険の入れ歯でも十分に」
などという先生がもいますが、その先生の大丈夫は上に書いたように気軽に抜いてもっと大きな入れ歯をすぐ安く作るから大丈夫、の意味の大丈夫です。
賢明なあなたは誤解しないでください。

インプラントは、最初に失敗しなければ天然歯よりも丈夫に入ります。
そして、定期的なチェックは必要ですが、耐用年数10年20年はほぼ常識という、非常に耐久性の高い治療です。
そして、垂直的な力の支えをしっかり支えられる、つまり他の歯に依存したり負担をかけたりしないで治せるのは、現時点ではこれしかないのです。

しかし長期的な視点に立ちますと、インプラントは廃れてくると思います。

なぜなら、未来の日本でも欧米のように一生を通じての継続的な予防管理が常識化してくれば歯がなくなるということ自体が激減するはずですので、ゼロとは言わないまでも実質的に非常にまれなものになっていくでしょうし、そうでなければ国民の不幸です。

歯列矯正

先ほども述べましたように、「予防管理」に重点を置くと、悪くなってからどうこうしよう、ではなく悪くならないようにどうすべきか、という考えになってきます。
人生の若いステージで、しっかりと咬み合わせと歯並びをととのえ、みがけない所がないようにすることが、歯列咬合の維持にいかに大事か。まだまだ十分に理解されているとは言えません。

また、むし歯歯周病以外にも、力のバランスやコントロールは歯列の維持に極めて重要です。これらは一般歯科でできることはかなり限られており、どうしても矯正の力を借りる場面が多く感じています。

歯科衛生士

中には歯科助手とどう違うのか、よく分からない方もいるかもしれませんが、歯科衛生士は国家資格で、歯科医師の指示のもと、薬物塗布や予防的処置のために口腔内に触れることができます。

現在、恒常的な歯科衛生不足が全国的な問題になっており、人件費の高騰は世の院長の頭痛のタネになっています。

◆ 予防管理のスペシャリスト

基本的には歯科衛生士は大きな侵襲的なことはしません。ブラッシングの指導・コーチング、ホームケアで取れないところの定期管理および清掃、そして担当患者の長期的な管理面を担当します。
しかし将来は大きな治療は必要なくなってくると考えれば、むしろ歯科医師よりもメインの立場になっていくことでしょう。

また、とくに乳幼児期~就学前のケアと管理はお子様の一生にかかわる大事な時期です。そして、両親を含め周囲の大人の協力がきわめて重要な時期でもあります。
小さいお子様が自分で予防の意義を考えて自分を守れるわけがありませんから当然です。

◆ 介護・教育現場への拡充

さきほども述べたように、介護の現場での口腔ケアも質でも量でもマンパワーを必要とします。
正しく効果的な口腔ケアにより、要介護者の歯を守って管理していく中心的な立場として、行政面でも育成、制度設計、財務などしっかりとしたバックアップが必要です。

これらには歯科衛生士がもっとも得意とするところです。

審美歯科

ここにはセラミックによる変色歯の修復、ホワイトニングによる歯の演出などが含まれます。
もちろん、直接的には疾患の処置とは関係ない分野ではありますが、エンターテインメント・ショービジネス分野、女性などの層を中心に一定の需要はキープされるものと想定されます。
そしてもちろん、ひとたび修復となったら接着剤の境界線ができますから、一般治療同様、予防管理は必須です。

クラスAの健康を目指して

上記の内容で、保険の利く話がほとんど無かったので、かなりがっかりされたかもしれません。

しかし私は、これは患者様とか歯科医師とか、誰かが悪い(そういう者もたまにはいますが)というわけでもなく、歯科が「治療」にすがってしまった過ちの悪影響の一つだと思っています。

まずは逆転の発想で、

 予防歯科と矯正を安く~成人一般歯科を高く
 一般歯科医師を少なく~歯科衛生士を多く

の2点を基本に、中長期的なビジョンや制度設計を考えていくことが今のところ最も大事だと思います。

そのような将来像を想定して、当歯科室では、徐々に未来志向型の歯科に移行していきたいと思っております。